狸の昔ばなし

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side:--- この旅にはきっとあの人の謎を解明する手掛かりがある。それは確信に近いものだった。であるからこそ、先生の側を五日ほど離れることになると知りながら同行を申し込んだのだ。一行の誰よりも綺麗に整った薄茶色の髪を風に揺らし、にこにこしている狸に、不必要に飛んだり跳ねたりしている落ち着きのない白猫、これだけでもお供として全く頼りにならなそうなやからだというのに一番足を引っ張りそうなやつが一人。同じくらいの背格好の少年だ。この年で女の自分と大きさが変わらないのもないと思うし、農民の生まれであろうに土に汚れた風も、腕に自信がある風にも見えない。今でさえ掃除中にほこりがまえば口許を押さえて咳き込み、洗濯や器を洗う時には冷たそうに白い手を擦る、今よりもなお病弱だったと言うのだから口減らしにされるのも仕方がないと思えてしまう。なぜ先生はあんな輩を拾ってきたのか。理解できなかったし、理解できるとも思えない。とにかく、自身の知る限り最悪だった。 昨日だってそうだ。本当は一つ先の里までいく予定だった。だというのに猫は朝からいないし、あいつは足が遅いし、狸はそんなこと関係ないとばかりに誰も聞いちゃいない長話を続けていた。こんなにのんびりしていたら何日かかるのだろう。本当、嫌になる。見上げた空はくも一つない晴天でそれが更にいらいらを増した。 そもそも、だ。本当であれば私と猫と狸の三人? やつらを人と呼ぶかはわからないが、ご丁寧に人型に化けているのだから人と数えさせてもらうとして。その三人でいくべきなのだ。いや、それも代理にしかならない。本当ならば……先生がいくべきなのだ。私と先生の二人旅が理想。もう一人くらい雑音がいてもまあ、許してあげるけれど。しかし、なぜだか先生はあのもやしっこが気に入っているようである。自分の物ににた色の着物をあたえ読み書きそろばんに始まり、商業知識、家事、歴史、国の内外の文化。そこらの武家のお坊ちゃんであってもこれ程分野を問わないで知識を詰め込まれてはいないだろうってほどに詰め込んで、ここ最近は様々なところに連れていかれている。
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