狸の昔ばなし

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狸はすうっ……と視線を道の先にやる。まだ今日の目的地である街は見えないが、狸の目にはなにかうつっているのか。それは遥かな昔を見ているみたいで、急に狸が遠くに行ってしまう。そんな感覚を覚える。先生と話していてもたまに感じる違和感。この人たちは人間じゃないのだという奇妙な再確認をさせられる。 「さて、と。またのんびりいこうか。桐花さんはゆっくり歩こう。この先ははわりとサライ……大きなからすのような鳥なんだけどね。そいつがたくさん飛んでいるし、危ないからね。かたまっていれば夢くんが何とかしてくれるはずだから」 「え、あたしなん? まあいっか」 「そういうことはちゃんというんだな……」 発された言葉のどこか恨みのこもった言い方に猫がくすっと小さな笑い声をたてた。 「頼まれたから、それくらいはあたしらでもするんよ。それだけ」 猫はぴょんと立ち上がる。そして、さあ、いこうかと誰からともなく歩き出した。 ◇◇◇
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