狐の戯言

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人間の愚鈍さを話のたねに酒をのみ交わす輩には、少年もその周囲も愚か者でしかないのだろう。しかし、彼らと人間はさほど離れた存在ではないように見える。どちらも笑い、喜び、泣き、嘆き、それらを不安定に繰返し生きている。生きるため、犠牲を必要とする。その方法は当然違うけれど。 それは、私自身をふくめ皆同じ事。その犠牲が血の繋がった者だったとて不思議であるものか。良いことではないことなど当人たちもよく知っている。 供物や口減らしにより命を失う者は今も零とはならない。時代の変化であろうか、時が過ぎるにつれ他の生物や道具を捧げ、子を奉公に出す者が増えてはいる。 それでも、限りなく零に近づく数が、完全な零になることはないのかもしれない。 「あの……」 いつの間に目を覚ましたか。 幼い顔を不安の色で染め、少年が上半身を起こしていた。灰と黒との合間の色をした瞳が部屋中を必要最小限の動きで見回し、薄紫の唇が次の言葉を選ぶ様に小さく開閉される。 「すみません」 やがて、此方を見上げて小さな声で紡がれたのは謝罪の言葉。子供特有の高さを持った声には深い悲しみのようなものがうかがえた。 なんとも子供らしく無いことで。 「治療とかしてもらってもお礼出来なくて……だから、申し訳ないですけど。その……俺、帰ります」
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