猫の手鏡

3/17

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
先生の後ろについていくといつもと同じ部屋に二人分の食事が用意されている。これを知ったら母さんや父さんはどう思うのだろうか。今は考えても仕方がないか。 礼儀作法についてあれこれ言われることもなくなった食事は多少の会話と共に進められる。ほとんどは先生が最近街であったことを話していて、この屋敷からでていない俺はそれを聞いている形になる。誰と誰が喧嘩していたとか、最近よくわからない盗みが出るだのそんな話。 「お客さんのようだね」 突然、先生がそう言って器を片付けようとしていた手を止める。 玄関は廊下の一番先。この距離で音を聞き取れることが先生が妖であるといつも思いださせてくれている気がする。 「迎えに行ってもらえるかな。彼女なら君をみても問題ないだろうから。きちんと教えた通りにね」 その言葉を背に廊下を抜けて、玄関の扉を開く。お? と間の抜けた声を出して俺と同じくらいの背丈の少女が此方をじっと見てくる。 「えっと……その、先生に用があるんだよな?」 少女が何度も首を縦に振る。その髪の一部がそれに合わせてぴょこぴょこと跳ねた。髪の一部が他の流れに逆らって形を作っていたりするのだが、一体どうしたらそうなるのか。 「ちょい相談事があってな。君を来させたなら先生は知ってるやろうけど」 少女はそう言うと慣れた様子で中へと入ってくる。そして、思い出したかのように此方を振り向いて 「あたしは夢! よろしうね」 と満面の笑みを浮かべた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加