三千世界の烏を殺し

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「あら、嬉しい」  その視線だけで男達の魂を抜くとまで言われた花魁は、妖艶な瞳を笑みの形に和ませると、そっと新造の頬に指を滑らせた。  そしてそのまま、くいっと顎を上げさせる。 「巷でわっちが何と呼ばれているのか、知っているかい? 日向」  吉原に天女あり。  名を、藤之屋の花巻太夫。  彼女を身請けしようという男はごまんとあれど、その身請けが実際に成ったことは一度とない。 「死神太夫、でありんすよ」  なぜならば、花巻太夫を身請けしようとした男は、全員ことごとく死んでいくから。 「おまぃ、わっちに昔言ったね?  年季が明けたら、一緒になろうって」  ついたあだ名が『死神太夫』  命を賭けてでも手に入れたい、高嶺に艶然と咲き誇る花。 「おまぃに、死神太夫を貰い受ける、覚悟はあるのかえ?」
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