焦燥

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佐藤組を立ち上げるに際して、人材の他に必要なものは、何はなくとも組事務所だった。そこで佐藤マモルは、彼の兄貴分で現在服役中の桜田総一の古い知り合いを頼り、廃墟寸前の古びた老朽ビルをただ同然で買い取ったのだ。そしてその一階を改装すると共に、佐藤組の事務所としたのだった。 組事務所の奥には、組長専用の簡素な机と古ぼけた革張りの椅子がある。そこに佐藤マモルがふんぞり返って座っている。その背後には、立派な代紋が掲げられている。 それには、迫力ある金文字にて、このように記してある。【雛田佐藤組】 逃亡者の笹木レンを探し出して殺害するまでの期限は一ヶ月。そう言われてから既に三週間以上が空しく過ぎ去っていた。あれよあれよという間に、佐藤マモルの命の灯が消えるまで、あと残り一週間となった。 人を殺した罪の重さに耐えかねる一方で、出頭するのもまた御免被りたかった。残りの一生を刑務所で過ごすつもりはない。裁判で死刑を言い渡される恐怖も、未だ拭えなかった。絶体絶命とは、よく言ったものだ。 ――もしもだ。もしも、あと一週間で、笹木レンを探し出せなかったら。どうする。
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