地下

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素知らぬ体で、佐藤は三人の若者を順番に見た。 「じゃあ、質問を変えるぞ。自分がここになぜ連れてこられたのか、さっぱり分からねえっていうヤツは、正直に手をあげろ」 朗らかな口調で、明るく問いかけた。 秋山が、はにかみながら、恐る恐る手を挙げた。 その瞬間、踵が空を切った。 佐藤の蹴り。強烈だった。衝撃をまともに食らった秋山の顔面が後方に仰け反った。 秋山。血を吐いている。痙攣している。鼻が曲がり、前歯が欠けている。 「おい。起き上がらせろ」 佐藤は北田と菊池に命じた。 ふたりに左右を抱えられ、秋山が上体を起こした。 「いいか、皿回しの秋山。最初に言っとくぞ。今から俺がおまえに幾つか訊くが、俺の質問には即座に答えろ。即座にだ。誤魔化したり、時間稼ぎしたり、下手な真似しやがったら、こんなもんじゃ済まねえぞ。分かったな」 「言われたら返事せんかい、この野郎」 北田が無理矢理に秋山の頭を押さえて頷かせた。 「じゃあ、ひとつ目の質問だ。秋山、てめえは一体、何で生計を立てている」 「答えろ、この野郎」 北田が秋山の後頭部に拳骨を三発食らわせた。 野田が泣いている。 佐藤は長田に言った。 「長田、そいつらはもういい。家に帰してやれ」 本間と長田から引きずられる野田と小林に、佐藤は言った。 「おい。ここで見たことを誰にも話すんじゃねえぞ」 秋山を指差して、佐藤は続ける。 「それから、友達はきちんと選べ。こんなくだらねえクズとつるんでたら、ろくな人生にならねえぞ」 佐藤は野田と小林の身分証をまとめて放り投げた。ふたりの足元に、それらが散らばった。 「免許証と社員証だ。返してやるよ。それ持ったら、さっさと帰れ」 「命拾いしたんだから、叔父貴に礼ぐらい言えよ、この野郎」 本間に怒鳴られ、野田と小林は「はい。ありがとうございます」などとボソボソ言いながら深く頭を下げた。 部外者は去った。というわけで、半グレ秋山の尋問を再開する。
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