蒼空

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佐藤マモルは、ふと思い出した。思い出してすぐ、懐から回転弾倉式拳銃コルト四十五口径M1917を取り出した。 「よう、半田。タオルか雑巾あるか」 佐藤マモルから問いかけられて、半田アキトモが頷いた。半田は、運転席の背もたれの裏側の小物入れから、白い清潔なタオルを取り出した。佐藤はそれを受け取った。それを使い、何度も何度も執拗に回転式拳銃を磨きあげた。拳銃のすべての指紋が拭い取られた。 それから、あらかじめ用意しておいたジッパー付きのビニール袋をMA1のポケットから取り出した。袋の口を開いて、拳銃を落とし込む。ふたりの兄弟分、北田ハルオと半田アキトモは、その意味をあらかじめ心得ているから、何も言わない。 佐藤マモルは、ベルトに差し込んでいた自動式拳銃のコルト四十五口径1911A1軍用ガバメントも取り出した。ついさっき、ボディーガードの佐竹からぶん捕った戦利品だ。 それを見た半田アキトモ。もともと血色の良くない顔が、さらに青くなる。 「おい、なんだそれ。若頭から、襲撃で使用する拳銃はコルトの回転式。他は絶対使うな。予備の拳銃も絶対持って行くなって、あれほどしつこく言われたろう。もしも予備の拳銃のことがバレたら、絶対やばいぞ」 半田はひょうきんで気持ちも優しくいいヤツだ。だが、半田には欠点がある。ヤクザとは思えないほど肝っ玉が小さいのだ。野心というものが無い。だからこそ、裏切らないヤツと見なされ、今回の襲撃の検分役(見張り役)として選ばれた。そんな裏事情を半田本人が自覚しているのかどうか分からない。だがとにかく佐藤マモルは、事の次第を説明して検分役の半田を納得させなければならぬ。 「ああ。これか。これは予備として俺が持ってきた拳銃じゃないよ。欽田政夫組長のボディーガードの佐竹とかいう野郎が持ってた拳銃だよ。あの野郎のさっきのザマ、見ただろう。あいつは腰抜けだ。腰抜けはこれを持つ資格なんてない。だから、獲りあげてやったんだよ。これは戦利品として、俺が貰っておく。そんな訳だから、若頭に余計な報告なんかしないでくれよな」 「ああ、そうか。そんならいいんだ。分かった。承知した。ところで、あいつ本当に見かけ倒しだったよな。マジで腰抜かしてたな。笑っちまうよな。とんだタフガイ野郎だぜ」 半田が言うタフガイ野郎という言葉が面白かったのか、北田ハルオが笑い声を上げた。半田アキトモと佐藤マモルが北田の笑い声につられ、力なく虚ろに笑った。
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