235人が本棚に入れています
本棚に追加
/558ページ
前方左脇。二十四時間営業のコンビニエンスストアが見える。
三人を乗せたクラウンはコンビニの駐車場に滑り込んだ。停車したクラウンから降り立った佐藤マモルは、店の前の公衆電話に駆け込んだ。そして、組事務所の固定電話の番号を素早くプッシュした。携帯は使わない。万一の用心のためだった。
呼び出し音は、一回だけだった。
『はい。雛田組。どちらさんですか』
「俺だ」
短く名乗った。
電話の向こうの組員、おそらく電話番の平田が、どぎまぎしたような声を発した。
『兄貴ですか。お疲れ様です。いま若頭の松平さんと代わりますんで』
やはり、声は平田だった。
「おう」
十秒待った。
若頭の松平の聞き覚えのある声が受話器から聞こえる。
『連絡遅かったな。で、首尾は』
「遅くなってすいません。公衆電話なかなか見つからなくて。首尾は上々です。標的は完全に寝ました。もう目が覚めないでしょう。巻き添え無しです。これから、例のアパートに行きます」
『よし。御苦労。後の事は何も心配いらんぞ。欲しいのがあったら何でも言え。酒でも食い物でもオンナでも、何でも差し入れてやる』
「ありがとうございます。しかしオンナなんかいりませんよ。ではまた、後ほど」
佐藤マモルは、まるで骨董美術品でも扱うような手つきで、公衆電話の受話器を静かに置いた。それから、駐車場を真っ直ぐ横切った。ゆっくりと確かな足取りで、クラウンを目指した。
大気は冷たく乾ききっていた。
佐藤マモルは首をすくめながら蒼空を見上げた。まっさらのインディゴのような深い色の空には、呪われた無数の宝石たちがぶちまけられていた。その耀きは、不吉極まりなくギラギラ瞬き、そして儚く揺れていた。しかし佐藤マモルは、大気の冷たさ以外に何ひとつ感じてなどいなかった。
最初のコメントを投稿しよう!