蒼空

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前方左脇。二十四時間営業のコンビニエンスストアが見える。 三人を乗せたクラウンはコンビニの駐車場に滑り込んだ。停車したクラウンから降り立った佐藤マモルは、店の前の公衆電話に駆け込んだ。そして、組事務所の固定電話の番号を素早くプッシュした。携帯は使わない。万一の用心のためだった。 呼び出し音は、一回だけだった。 『はい。雛田組。どちらさんですか』 「俺だ」 短く名乗った。 電話の向こうの組員、おそらく電話番の平田が、どぎまぎしたような声を発した。 『兄貴ですか。お疲れ様です。いま若頭の松平さんと代わりますんで』 やはり、声は平田だった。 「おう」 十秒待った。 若頭の松平の聞き覚えのある声が受話器から聞こえる。 『連絡遅かったな。で、首尾は』 「遅くなってすいません。公衆電話なかなか見つからなくて。首尾は上々です。標的(マト)は完全に寝ました。もう目が覚めないでしょう。巻き添え無しです。これから、例のアパートに行きます」 『よし。御苦労。後の事は何も心配いらんぞ。欲しいのがあったら何でも言え。酒でも食い物でもオンナでも、何でも差し入れてやる』 「ありがとうございます。しかしオンナなんかいりませんよ。ではまた、後ほど」 佐藤マモルは、まるで骨董美術品でも扱うような手つきで、公衆電話の受話器を静かに置いた。それから、駐車場を真っ直ぐ横切った。ゆっくりと確かな足取りで、クラウンを目指した。 大気は冷たく乾ききっていた。 佐藤マモルは首をすくめながら蒼空を見上げた。まっさらのインディゴのような深い色の空には、呪われた無数の宝石たちがぶちまけられていた。その耀きは、不吉極まりなくギラギラ瞬き、そして儚く揺れていた。しかし佐藤マモルは、大気の冷たさ以外に何ひとつ感じてなどいなかった。
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