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深夜。蒼く染まった享楽の街。壊れたネオンが、うるさく点滅していた。
二〇一五年最初の月も、あと十日ほどで終わる。それにしても、身体に堪える。東北の乾いた寒空は容赦がない。寒さが腸の奥底まで突き刺さる。
見上げると、蒼白い月が何か言いたげだ。こんな気分は初めてだ。いや、そういう問題じゃなくて。月と会話なんてどうかしている。シャブの類いとは無縁だし、興味もない。どうなってるんだ。
もう一度、空を見た。星の群れが不様に散らばっていた。今度は大丈夫だ。あいつらは何も言ってこない。
寒さに、身体が震えた。
連日の寒さが、東北地方の片隅に位置するこの街を、容赦なく打ちのめしている。
一月十九日。この日も気象観測史に残るような寒さだった。
日付が変わって二時間が過ぎた。
一月二十日午前二時のアスファルトの肌が冷たい。身を低く屈めて触れてみると、そのひんやりした冷たさが、しかし、なぜか心地よい。
月が、また何かを語りたげだ。
うっかり空を見ないほうがいい。そうだ。そうしろ。地面だ。地面を見ろ。
下を向いて、身動きせず、人を待った。欽田政夫を、待っている。
欽田政夫は赤の他人だ。会ったことも無いし、電話の声も知らない。だから、恨みも無い。それでも、殺る。それを、兄貴分や叔父貴達は、もっともらしく渡世の義理という。親分が白いものを黒いと言ったらそれは黒いとか。
「くだらねえ」
視界の中で、街の灯りがゆらゆら揺れた。
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