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ガリゴリという不吉な大音響を轟かせながら、縁石を大胆に乗り越えた。ボディーの歪んだクラウンは、国道めがけて猛然と飛び出した。
「あーっ。畜生」
北田ハルオは無意味な雄叫びをあげた。ハンドルを抱き抱えるような北田の運転姿勢が滑稽すぎる。正直、かなり笑える。まるで初心者のオバサンのように異様なドライビングポジションだ。
北田ハルオが乱雑に操るクラウンから進路を妨害された複数のクルマが、一斉にクラクションを鳴らした。「馬鹿野郎!」複数のクルマ達が一斉に叫んでいる。
外れかかったフロントバンパーがアスファルトの表面を削っている。その摩擦音が、まるで酔っ払いの奇声のようだ。
路面に火花が散った。背中を炎で焼かれたネズミのような加速が、とにかく何とも言えず痛々しい。
真後ろのホンダ・オデッセイが、猛然と追い越しをかけて来た。
よほど頭に来たのだろう。無茶な追い越しだ。
「あの野郎。おい兄貴、拳銃を貸してくれ。あのオデッセイぶっ殺す」
北田ハルオは耳まで真っ赤になりながら叫んだ。
「ああ、畜生」
「おい北田、気は確かか」
「あんなの、ほっとけほっとけ」
半田アキトモと佐藤マモルは笑った。
「先に行かせてやれ」
「そうそう。ただの堅気だろうから、あんなのほっとけって。べつにこっちがヤクザ者だと分かってて追い抜いたわけでもねえんだから、笑って許してやれや」
北田ハルオが平静を取り戻した。電池の切れた玩具のように、静かになっている。
その後、三分間ほど、誰も言葉を発しなかった。
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