因縁

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「ところでよ――」 静寂を破り、半田アキトモはボソリと言った。 「さっきの金髪のガキ、明日になって本当に来るかな」 「来るわけないだろう。カネあげるから事務所に来いなんてヤクザから言われたら、普通の感覚じゃ怖くて行けないって」 佐藤は鼻で笑った。 「だよな」 半田は苦く笑っている。 「どこかの同業者からそんなこと言われたら俺でも躊躇するよ。まあ、あの様子じゃあ十中八九は来ねえな」 市街地を完全に脱した。窓の外には灯りがほとんど見えない。窓の外に見えるのは、真っ黒な海や畑、それに、かつて病院やラブホテルだった廃墟ぐらいだ。雛田組の縄張りは、震災の爪痕が至るところに残っている。 やがて、クラウンは国道から外れた。県道に入る。 「隠れ家、すぐそこだぜ」 北田がフロントガラスの向こう側を見つめながら、ぶっきらぼうな感じで言った。 道に沿ってしばらく走行すると、やがて、隠れ家の安アパートが見えた。 あれが、松平が用意したアパートなのだろうか。まさか、とは思ったが、そのまさかだった。 「少し、ボロいけどな」 そう北田が言うが、謙遜というわけでもなければ、もちろん冗談というわけでもなさそうだった。夜にもかかわらず、屋根が腐っているのがわかる。 何やら先行きの不安のようなものを感じた。背中が急に寒い。 両肩をシートに投げ出した。両目を閉じながら、佐藤マモルは静かに舌を打った。
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