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「免許証見せろ」
「あらかじめ、取り上げてます」
菊池が、免許証を三枚と社員証を二枚、佐藤に差し出した。佐藤はそれを受け取った。名前と身分を声に出して読み上げる。
「小林太郎。常陸山建設社員。野田信永。東西清掃社社員。それと、秋山昆太か。全員が、ええと、何歳だ。十九才。いや違うな、二十歳か。成人してるわけだ。それで、秋山以外のふたりは会社員なんだな」
泣きわめいているのは、野田信永。清掃会社社員。身分証に頼らずとも、顔を見れば分かる。明らかに堅気だ。
「おい、雛田組の組員様ってのは、三人の内の誰なんだ」
返答は無い。当たり前と言えば当たり前か。今さら嘘でしたなんて、仲間の前では言えないだろうし、ましてや、本職の前で言えるわけもない。
ふいに菊池が、佐藤の耳元に囁いた。
「親分、あの真ん中に正座してる秋山。箱で皿回してると嘘ついて女子高生を騙してレイプしまくってるクズです。さっき免許証を見てピンと来たんです。あいつ、皿回しのコンタっていうアダ名なんすけど、俺達世代じゃけっこう知られたワルです。街で何度か見たことがあります。あの野郎、いつの間にか髪型が変わってたから、免許証で名前を見るまで気づきませんでした」
「箱で皿回しって、何だそれ。大道芸人か何かなのか」
「親分、違いますよ。クラブのDJブースでアナログレコードやCDを回すってことです。クラブDJですよ。でも、秋山はスクラッチはおろか、ループさえまともに出来ないんです。そもそもDJでも何でもないくせして、DJのふりして女達を騙してるんです。DJ詐欺ですよ」
「DJ詐欺か。あんまり笑わせんな菊池」
「いや、すんません」
佐藤は思わず吹き出してしまうが、真面目に語っている菊池を見て、すぐに真顔に戻る。
「他にも、特殊詐欺で年寄り達を騙したりとか、色々悪さしてるって聞いてます」
「って言うことは、秋山は堅気じゃねえんだよな」
佐藤は念を押した。
「ヤクザではないし、純粋な堅気でもないし、ようするに半グレの詐欺師ですね」
「なるほど。半グレか。だったら、骨の五本や六本へし折っても、全然問題ねえな」
佐藤は頷き、菊池は離れた。
本間の嗅覚は、正しかった。
秋山は、こっち側の虫けらだ。
虫けらであれば、悪の食物連鎖の頂点に君臨する暴力団の佐藤マモルには、その生殺与奪権がある。
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