震撼

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笹木レンの失踪。それは佐藤マモルにとって寝耳に水だった。もちろん、組の長老や幹部達にとっても、それは同じだった。 「ちょっと待て。ええかげんにせえよ。それじゃ、何処の誰が出頭するんだ」 中富の叔父貴が怒鳴っている。 若頭の松平は答えない。 「このままシカトじゃあ、警察が納得しないぞ。執行部にもどう説明するんだ。執行部はそんなの絶対に許さんぞ」 中冨が言う執行部とは、雛田組が所属している昭和会の執行部のことを言っている。 執行部。まるで葵の紋所が入った印籠だ。それを振りかざせば大抵の主張や言い分はすんなり通る。 松平は無言だ。石像と化したかのようだ。 「だいたい若頭のお前が甘いから下の者がたるんでしまうんじゃあ。ボケえっ」 石倉組長の弟分である舎弟頭の中富が怒鳴っている。良く通る声が、組員達の耳を突き刺した。 舎弟頭の中富は五十四歳。五代目雛田組の最古参だ。 舎弟頭とは、組長(この場合石倉)の弟分の中の代表格の事だ。組の運営は、組長の子分の代表である若頭を中心として執り行われる。即ち、舎弟頭は雛田組における運営上の権限というものを持たない。舎弟頭というものは、事実上の名誉職だ。しかし、いくら権限が無いとはいえ、舎弟頭の中富は松平を始めとする若い衆達の叔父貴にあたる。あくまでも、目上なのだ。堅気の親類付き合いだってそうだ。本家の長男だからといって、叔父に対して顎で指図するような外道は許されない。ヤクザだって同じだ。甥っ子は、叔父には敬意を示す。当たり前のことだ。
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