深夜

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八メートル。七メートル。 幸運な出来事が起きた。おっぱいパブの女達が揃いも揃って一斉に道路を横断した。彼女らの一群が、反対側の歩道に消えたのだ。もはや欽田政夫組長との間に遮るものは何もなかった。ただふたり、愛人の巨乳女とボディーガードの佐竹を除いては。 五メートル。来た。 懐から右手を引き抜いた。羽織っていたMA1ジャンパーに拳銃が擦れる音が、夜霧を裂いた。拳銃を、後ろ手に隠す。 「欽田さん。どうもお久しぶりです」 佐藤マモルは、営業マンのように明るくハキハキした声を張り上げた。 「どちらさんだい?」 欽田が反応した。これで、人違いは回避できた。 佐藤は、回転弾倉式コルトを握った右手を、前方に突き出した。 引き金を引いた。撃鉄を起こさないダブルアクション。女の身体を撫でるような繊細さ。それは、限りなく滑らかに。
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