焦燥

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佐藤には、人が必要だった。だが、それに関しての心配は無用だった。兄弟分にして悪友の半田アキトモと北田ハルオが、雛田組組長石倉との盃を解消した上で、改めて佐藤マモルと親子盃を交わしたのだ。半田と北田は、兄弟分だった佐藤マモルの子分となり、佐藤組の組員になったのだ。しかしそれは、半田と北田のふたりにとっては事実上の左遷であり、明らかな降格処分だった。 なぜ、そんな事になったのか。内情を知らぬ者は皆そう思うのだが、一旦事情を知ってしまえば、誰もがその人事に納得する。 そもそも半田は、温厚すぎるその性質が松平派から嫌われていた。一般人にとっての美徳が、ヤクザの世界でも美徳とは限らない。半田はヤクザとしておとなしすぎた。もうこの辺りで堅気になるか、降格するか、半田にはどちらかふたつにひとつの道しかなかった。 そしてもうひとり。北田ハルオ。この男は松平が経営する闇金融から借金があった。それは到底返せる当ての無い、無謀な借金だった。本来なら、指をもがれて袋叩きにされるか破門になるところだ。それを北田は一等許された。が、しかしその代償として雛田直系組員としての地位を奪われた。そして、元は兄弟分だった佐藤マモルの子分に格下げされたのだった。 半田と北田に加えてあとひとり。あのコンビニで散々な目に遭わされたレクサスの金髪男が、佐藤マモルと親子盃を交わして組員になった。
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