焦燥

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名前は菊池マサキ。二十二歳。 この男、あのコンビニ店前の事件の翌日の夜になってから、雛田組の事務所にクルマの修理代を請求しに現れたのだ。 菊池は、佐藤マモル達からクルマを壊された件を、雛田組組員の平田に訴えた。 佐藤マモルの弟分である平田は、たまたま暇をもて余していた。だからいちいち頷きながら、気の毒な菊池の話を辛抱強く聞いてやった。 だが、菊池は不運だった。そこに傍系の五人の下っぱ組員達が、組事務所の掃除をするべく現れた。 ここで言う傍系とは、雛田組の下部団体である系列組織のことだ。 毎朝と毎晩の事務所掃除や電話番は、傍系から交代で駆り出される下っぱ達の仕事だ。彼らにとって掃除は、するのではない。やらされるモノなのだ。元々カッコつけな上に労働が嫌いだからヤクザになったような連中だ。みんな便所掃除が嫌で嫌で堪らない。だから血走っている。 「平田さん、どうもお疲れ様です」 「おっす」 「ところで、なんですか。その金髪野郎は」 「ああ。こいつか。菊池くんとかいうらしいんだが。昨日の夜、佐藤の兄貴達からクルマをぶち壊されたらしいんだ。佐藤の兄貴が弁償してやるから事務所に来いと言ったんだとさ」 「おい、金髪。ほんとか」 「はい。本当です」 「なんだと! 本当なわけねえだろ」 五人の掃除当番の下っぱ達は、目をひんむいた。
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