焦燥

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怒れる五人の傍系下っぱ組員は、応接椅子の菊池を取り囲んだ。そして、大声で叫んだ。 「こらっ。ヤクザに追い込みかけるたあ、良い根性してんな。大体にして、本家筋のれっきとした直系組員サマの佐藤さんともあろうお方が、何処の馬の骨ともわかんねえおまえなんかに、カネ払う約束するわけねえだろう。嘘ついてやがると承知しねえぞ。いっぺん死んでみるか」 「いやっ、ちょっと待って下さい。修理代を払って貰えるって、確かに佐藤さんから聞いたから」 「修理代だと。おめえ、頭おかしいんじゃねえか。クルマの修理する前に、おめえのぶっ壊れた頭を分解修理してやろうか」 「いやん! ちょっと待って」 一般市民には野獣のように強い菊池も、ヤクザの事務所で大勢のヤクザに囲まれたら、為す術がない。 ――俺の人生、終わった。 菊池は、死を覚悟したのだった。なぜか、一旦覚悟を決めたら、嘘のようになんにも怖くなくなった。だから菊池は、見栄を切った。 「グダグダ漫才やってねえで、さっさとカネ払えやあ。こっちはなあ、大事なクルマぶっ潰されてんだ。あれを買うのにどんだけ苦労したと思ってやがる。弁償しろ。なめんじゃねえぞ」 五人の下っぱヤクザの間に流れる空気の流れが、完全に止まった。 「ようし、いい度胸だ。望み通りぶっ殺したる」 「能書きいらねえから、全員いっぺんにかかって来いやあ」 菊池は叫んだ。
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