焦燥

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「親分、そん時はどうするんですか」 佐藤組若頭の半田アキトモが、組長の佐藤マモルに問いかけた。 「なあ親分、あと一週間しかないんだよ。いいんですか。こんな所に座ってて」 「こんな所にだと。てめえ、半田。こんな所にってなんだよ、こんな所にってよ」 怒ってみた。だからと言って、それですべてが解決して丸く収まるほど世の中というものは安くない。 「半田!」 声を上げたが、何処と無く虚ろだ。 「いや、すんません。しかし本当に、あと一週間なんだ。一週間後にあんた警察行くか、死ぬか、どっちかしかないんすよ。どうすんだよ佐藤!」 もともと五分五分の兄弟分だ。しかも、友として付き合いも長い。使いなれない敬語は、やはりしっくり来なかった。何しろ、悪友の片割れが急に親分になったのだ。無理もない。 「あと一週間たったらなあ、松平と戦争だ。やってやるよ」 「本気かよ。松平の叔父貴に楯突いたら、雛田組全部を敵に回して、全面戦争になっちまう。下手したら、昭和会まで敵に回すことになる。そしたら」 地球上、どこにも逃げ場が無くなる。 「あのクソジジイ、俺が本気になったらどうなるか思い知らせてやる。俺からケジメとして、二百万円もむしり取りやがって。そもそもクルマをぶつけたのは、俺じゃねえぞ。北田だぞ。北田の下手くそのせいで、まったく」 今や北田は、佐藤マモルの子分だ。子分の不始末は、親の責任だ。松平の裁定は、ある意味では正論に基づく真っ当なものだ。ちなみに、ある意味とはこの場合、ヤクザの世界そのものを指す。 「松平と戦争だ」 何度もくどかったかもしれない。だが、半田はそれを真に受けている。 「うちは四人しかいないんだ。喧嘩にもならねえよ」 「何を弱気になってんだ馬鹿野郎。戦争はなあ、数じゃねえんだよ。気迫なんだよ」
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