深夜

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大口径の四十五ACP弾が発射される轟音が、ネオンというネオンを一斉に震わせた。 弾丸は欽田政夫組長の胴体のど真ん中に吸い込まれた。凶弾は背中から抜けて何かに当たり、跳弾となって消え失せた。跳ね返った不吉な音が、長く尾を引いた。 「わっ」と声を上げた者がいる。それが欽田政夫組長なのか、護衛の佐竹なのか、はたまた佐藤マモル自身なのか、それはわからない。 とにかく誰かが叫び、ボディーガードの佐竹がアスファルトに尻餅をついた。 欽田の愛人の巨乳女が、自分の頭を自分の両手で抱え込んでいる。彼女は、何かを叫んでいた。 佐藤マモルは自身でも驚くほど冷静だった。信じられないぐらい正気を保っていた。 頭が冴え渡る。周囲の時間が、止まっているような感じだった。 再び、引き金を引いた。引き金を、ダブルアクションで五回、連続して引いた。弾丸をすべて撃ち終えた時、欽田政夫組長は胴体のあちこちをぶち抜かれ、もはや動いてはいなかった。 クルマのエンジンの音とタイヤが鳴る音が、同時に聞こえる。 ボディーガードの佐竹を見た。尻餅をついた佐竹の右手が、大型の自動式拳銃を握っていた。佐竹の手にした拳銃が、佐藤を真っ直ぐ狙っていた。佐竹と目が合った。身体が凍りついた。 終わった。人生終わり。 しかし、そう思ったのもわずか一瞬だった。 佐竹が引き金を何度も引いているのに、なぜか銃声がしない。弾丸が佐竹の拳銃から一向に飛び出して来ようともしない。 そんな馬鹿なと思った。尻餅ついて腰を抜かした佐竹を見下ろせる場所まで、ゆっくり歩み寄った。 佐竹の手にした自動式拳銃は、古ぼけたコルト1911A1軍用ガバメントだった。信じられなかった。動揺した佐竹は撃鉄を起こしていないのだった。シングルアクションの自動式拳銃ガバメントは、これでは撃てるはずがない。 一瞬の間を躊躇したものの、手にしていた回転弾倉式コルトのグリップで、佐竹の横っ面をぶん殴ってみた。 ゴンッという、間の抜けた音がした。 佐竹の手から、ガバメントを難なく奪い取った。それを自らのジーパンのベルトに差し込んだ。
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