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「茜(アカネ)ちゃん、おいで」
低く響く、甘い声。
わたしに差し出すその手を、迷わず掴んで笑顔になる。
「蒼吾(ソウゴ)くん」
彼の温かい手の平に包まれて、
「蒼吾くん」
嬉しくなって何度も名前を呼んだ。
「ん?なに?」
背の高い彼は、屈んでわたしの顔を覗き込む。
「蒼吾くん、大好き」
わたしの言葉に一瞬瞳を見開いて。
「うん。オレも」
目元をほんのり紅く染めて。
蒼吾くんが答えてくれる。
でもね?
わたしは、ちょっと不満。
だってね、蒼吾くん。
いつも『オレも』って言ってばかり。
わたしの名前だって、
『茜ちゃん』って呼ぶの。
ねえ、蒼吾くん。
わたしはそんなに子供じゃないよ?
社会人の彼と。
この春高校を卒業するわたし。
その壁は、まだ越えられないのかな。
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