3 逃げる、わたし

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「茜ちゃん!」 わたしを呼ぶその声を振り切るように、回れ右して改札へ逆戻り。 「茜ちゃん!?」 慌てた声の蒼吾くんが追ってくる気配を感じながら、人ごみをすり抜けホームへと走る。 閉じる扉に背を向けて。 荒くなる呼吸を、必死で静めた。 【出張が早く終わったから、昼過ぎなら会えるよ】 蒼吾くんのメッセージに、飛び上るほど喜んで。 初めてのデートに期待いっぱい膨らませて、待ち合わせの場所に行ったわたしの目に映ったのは。 『加奈子』 わたしと蒼吾くんの間に背を向けて立つ女性に、笑顔を向ける彼の顔だった。 オトナ雑誌に出てくるような、ファッション。 背中までゆるく流れる、手入れの行きとどいた髪。 ロング丈のピンヒールの、ブーツ。 モコモコぺたんこブーツに、リュック。 お団子頭に、ぐるぐる巻きのモコモコマフラー。 そんな格好の彼女とわたし。 どちらが蒼吾くんにお似合いかなんて、誰が見ても一目で分かる。 別の男性と結婚が決まった元カノって、もしかして・・・ アノヒト? 零れそうになる涙を、電車の中で必死に耐えた---
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