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『アイツ』
親しげな呼び方に、心臓が大きく鳴る。
「その・・・たまたまあそこで会って」
だから?
「アイツとは、あれから一切連絡してない。もう結婚---」
「帰って!!」
彼の言葉が言い終わらないうちに、大声で叫んだ。
やっぱり元カノだった。
左手薬指の、リング。
もしかして以前は、蒼吾くんが贈ったものがはめられていたの?
布団にもぐって泣きながら、胸元に手を当てる。
『合格祝いだよ』
入試の合格祝いに、蒼吾くんからもらったペンダント。
有名なブランドショップのモノだけど。
ハート形のその白金のペンダントが、無性に子供っぽく思えてしまった。
「茜ちゃん・・・」
ドアの向こうで切なげにわたしの名前を呼ぶ、彼に。
わたしは掛ける言葉も浮かばなかった・・・
ねえ。
蒼吾くん。
わたしって、そんなに子供なの?
ちゃんと好きだって言われたこともない。
いつもちゃん付け。
あのヒトは、別れた今も。
呼び捨てなのに---
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