3 逃げる、わたし

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『アイツ』 親しげな呼び方に、心臓が大きく鳴る。 「その・・・たまたまあそこで会って」 だから? 「アイツとは、あれから一切連絡してない。もう結婚---」 「帰って!!」 彼の言葉が言い終わらないうちに、大声で叫んだ。 やっぱり元カノだった。 左手薬指の、リング。 もしかして以前は、蒼吾くんが贈ったものがはめられていたの? 布団にもぐって泣きながら、胸元に手を当てる。 『合格祝いだよ』 入試の合格祝いに、蒼吾くんからもらったペンダント。 有名なブランドショップのモノだけど。 ハート形のその白金のペンダントが、無性に子供っぽく思えてしまった。 「茜ちゃん・・・」 ドアの向こうで切なげにわたしの名前を呼ぶ、彼に。 わたしは掛ける言葉も浮かばなかった・・・ ねえ。 蒼吾くん。 わたしって、そんなに子供なの? ちゃんと好きだって言われたこともない。 いつもちゃん付け。 あのヒトは、別れた今も。 呼び捨てなのに---
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