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彼女を上から見下ろしながら、大粒の涙を指ですくう。
「ごめんね?もう逃がしてはあげられないから」
頬に当てたオレの手にそっと自分の手を合わせ、何度も頷く茜ちゃん。
それを取って、手の平に口付けて。
彼女の手をそのまま自分の頬に、くっつけた。
「愛してる。君が思うよりもずっと。好きなんだ」
加奈子たちに言えなかったのは。
そこまでの気持ちじゃ無かったから。
ああ。そうか。
愛しい気持ちが溢れて仕方が無いから、言葉になるんだ。
言いようのない幸福感を抱いて。
泣き続ける彼女を抱きしめ、あやすように背中を撫でるうち、彼女は眠りについた。
ねえ、茜ちゃん。
これからは何度だってこうして眠れるんだね。
伝言板一面に書かれた、『バカ』の文字さえ愛しく思える。
何度だって、好きだっていうよ。
何度でもキスをして。
君が起きたら渡したいものがあるんだ。
気に入ってくれるかな。
卒業のお祝いと、大学生活の虫避けに小さな石の付いたリング。
左手の薬指のモノは、あと数年後。
「茜・・・もう離さないから」
眠る彼女に口付けた---
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