第1章

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太鼓みたいにはしないように、気をつけて近所のお寺の境内へ着きましたら。  本当でした。人間たちが勝手にお庭の木にしてしまったのです。 梅の木は白い二匹の狐が、物陰から見ているのを見つけて。お久しぶり。と 何か寂しげに言いましたから、お久しぶりです。こんな所に居たくないなら 帰りましょう。そうとも帰りましょう。好い香りですよ。帰りましょう。  そうは言っても、黙って帰る事は出来ません。好い香りのまま梅ノ木は しくしく泣いてたり、風に揺れてたりしていました。そんなですから、 もう二匹の白狐は、怒ってしまって人間を怖がる所か祟っても好いとさえ 思ったのですが、梅ノ木に呪ったり祟っても、私はどうにもならないし、 そんな事をすれば、あなた達が嫌な白狐だと殺されてしまうかもしれないと 梅ノ木は春が来る声で、言いました。  二匹は毎日境内に来ては、泣きました。お願いです返してください。 梅の実は要らないから、梅の木の元の場所へ帰らせてください。 毎日毎日、泣きましたが、梅ノ木は悲しいの我慢して。見つからないよう お逃げなさいと言うばかりでした。  梅の実が一杯に実った頃、二匹は泣き疲れて死にました。一緒でした。 まだ青い梅の実の下で、好い香りに包まれながら歌いました。  梅の木だって狐だって、必要もない程に殺さないでおくれ。 そうしておくれ。雨が降っても泣き続けよう。山男も殺さないでおくれ。 そうしておくれ。そうしておくれよ。狐もそうしておくれないか。  稲荷神社に二匹が祀られた側に、梅ノ木があるかどうかは山男しか 知らないのです。山男は誰もいない夜に、稲荷にお神酒を持ってきます。 絵を描くから。必ず立派に描くから。見てくれろな。又来るから。  今夜も雷さまが太鼓の用意をしています。
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