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(愛も恋も、欲しくなんかない。いらない。しかも、真実の愛? そんなもの、知りたくもない。)
今でもその曲の旋律は好きだ。
だが、そこに込められた思いは、嫌い。
(早く終われ……。)
そんな気持ちが、自然と沸き上がってくる。
どう思っていようとも、昔あれだけ弾いていた所為か、体は突然の事態に、無意識にその旋律を紡ぎ出していたようだ。
最悪の一言に尽きる。
所々でビブラートをかけ、調べを膨らませていく。
曲は次第に盛り上がり始め、一層大きく弓を動かす。
そんな沙友理の脳裏に浮かぶのは、雨の中立ち尽くす、自分の姿。
震える唇は、言葉を紡ぎ出すことも叶わない。
(あの時、私は確かに決めたんだ。)
冷たい雨が、降り注ぐ。
(もう、恋なんてしないって、そう決めたんだ。)
全てを、その雨は冷やしてしまう。
体も、心も。
(絶対に……。)
雨は、止まない。
(私はもう、二度と誰かを好きになんてならないんだーー。)
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