music, start

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♯♯♯  幸いにも、雪は積もってはおらず、小さな粒は地面に落ちるとすぐに溶けてしまっていたため、沙友理は問題なくバイト先にたどり着くことができた。  沙友理の自宅から徒歩八分。  大通りを少し逸れた所にあるその喫茶店、【cafe music】。  近くには飲食店が他にも立ち並び、休日ではあるが、昼過ぎの今は人もまばらだ。  それぞれがメニューや内装など、様々なものを工夫して売りにする中、【cafe music】は特に変わっていた。  沙友理は、その変わった所が気に入り、軽い気持ちで面接を受けたところ、なんと合格。  それは、つい昨日のこと。 『じゃあ、明日からよろしくね~』  のんびりとそう告げた店長を思い出しながら、沙友理は前もって教えられていた店の裏手にある入り口に回った。 (さて、がんばるか。)  担いだケースの肩紐をいっそう強く握り、反対側の手でドアノブを掴む。  それを回そうとした時ーードアは勢いよく内側に引かれた。 「うわっ!!」  思わず前のめりになり、体の均衡を失う。 (こける!)  覚悟と同時に目を閉じた瞬間、沙友理の体が何かに支えられた。 「っと、大丈夫?」  頭上から降ってくるのは、低く落ち着いた声。 「え……?」  驚きながらも目を開けて見上げると、そこにあるのは端正な女性の顔。 「ごめんごめん、人がいるなんて思わなかったから勢いよく開けちゃったよ。」  謝りながらも快活に笑う顔は、美形という言葉がよく似合う。  濃い茶の髪に、色が白く、きめの細かい肌。  長い睫毛に、つり目気味の目尻。  鼻は高く、赤い口紅は凄まじい色気を放つ。  化粧は決して濃くはないが、彼女の魅力を存分に引き出している。  モデルのような艶やかさを持つ、二十代後半と見えるその女性は、手にしていたゴミ袋を置き、両手で沙友理を立たせてくれた。 「大丈夫? けがは?」 「ない、ですけど……。」  ずれた眼鏡を直し、沙友理は正面から女性を見据える。 「ならよかった。」  眩しいほどの笑みを浮かべる彼女に、沙友理は見覚えがあった。
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