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「こんにちは、有坂沙友理と申します。今日からこちらで働かせてもらうことになりました。……店長さんの、奥さんですよね?」
「うん? ……あー、よく見れば昨日来てた子じゃないの! あなたが沙友理ちゃんね!」
すると女性はぎゅっと沙友理の手を握った。
「旦那から話は聞いてるわ! 私は西宮菜央(にしみやなお)よ。これからよろしくね!」
そう言って女性ーー菜央は、心から嬉しそうに笑った。
(……すっごい美人。)
いささか気圧され気味になりながらも、沙友理は頭を下げる。
「はい、よろしくお願いします。」
「うん! あー、お店の案内してあげたいんだけど、私ちょっと用事があって……。このまま真っ直ぐ廊下を行けば事務所で、そこに行けば旦那がいるから、旦那に話を聞いてちょうだい!」
「はい、分かりました。ありがとうございます。」
「夕方には戻ってくるから、演奏、楽しみにしてるわね!」
そう言って、菜央は足早に行ってしまった。
残された沙友理は首を傾げる。
「演奏……?」
(今日は接客だけでいいって言われたはずだけど……。一応、楽器は持ってきてるけど。)
だが、それも練習場所があると聞き、練習するために持ってきただけだ。
「……とりあえず行ってみようか。」
不思議に思いながらも、沙友理は店内に足を踏み入れた。
通路はきれいに掃除され、天井のライトも明るく、清潔な印象を与える。
少し歩けば、やがて見覚えのある廊下にさしかかる。
(ここ、昨日も来たとこだ。)
そう思い、菜央の言葉と記憶を頼りにし、ある扉の前で足を止めた。
(ここ、だよね。)
少し緊張しながらも、沙友理は扉を叩く。
「あの、今日からバイトに入る有坂です。」
「ーーあ、沙友理ちゃん? どうぞ入って!」
返ってきたのは、人の良さそうな穏やかな声。
「失礼します。」
そう言って扉を開けると、にこにこと笑う男性が出迎えてくれた。
「いらっしゃい、沙友理ちゃん。今日からよろしくね。」
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