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室内にいたのは、恰幅のいい、いかにも気のよさそうな風貌の男性。
「昨日も会ったけど、改めて自己紹介。僕はこの【cafe music】の店長、西宮佳祐(にしみやけいすけ)だよ。」
彼こそが、この喫茶店【cafe music】を営む男性だ。
「こちらこそ、有坂沙友理です。よろしくお願いします。」
丁寧に沙友理が返すと、佳祐は一層笑みを深めた。
三十代の彼は、どこかのんびりとした雰囲気を纏い、落ち着いた黒髪と柔和な表情が、相手に安心感を与えるような人だ。
部屋の様子もまた、主の人柄をよく表しているように感じる。
温かみのある茶色を基調にそろえられた家具と、壁際に置かれる柔らかい緑の観葉植物。
昨日も感じたが、随分と居心地がいい。
そしてその中でも一際目を引くのは、天井に届きそうなほど高く大きな棚。
その中に納められているのは、立派なスピーカー付きのステレオと、たくさんのCDや雑誌。
CDはクラシックやジャズを中心に、そして雑誌は全て音楽関係の雑誌だ。
佳祐の音楽好きが、一瞬でよく分かる。
そしてそれは彼の店にもよく表れ、沙友理がこの店で働くことを決めた理由だ。
「あ、本当に楽器持ってきたんだね。」
背に担ぐケースを指摘され、沙友理は頷く。
「はい。昨日言ってた通り、せっかく練習場所があるなら、練習して帰ろうと思って」
「丁度よかったよ! 今日の演奏は沙友理ちゃんで決まりだね!」
「……は?」
沙友理は、思いっきり怪訝な表情を浮かべてしまった。
だが、佳祐にこにことしたまま言う。
「実はね、今日演奏してもらう予定だった子が急に来れなくなっちゃって。だから今日は僕と菜央と沙友理ちゃんの三人しかいないんだ。それなら、せっかくだから沙友理ちゃんに任せることにしたんだ!」
「……いくら何でも急すぎません?」
「大丈夫、昨日僕に演奏聴かせてくれただろ? とってもうまかったよ! それで、君なら任せられると思ったんだ!」
「いや、でも……。」
「ありがとう、頼りにしてるよ!!」
(……まだやるとは言ってない。)
沙友理の言葉も聞かず、朗らかに言う佳祐。
そう言えば、今日の星座占いは、何とも言えない十一位だったなと、どうでもいいことを思い出した沙友理であった。
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