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「演奏の時間となりました。本日は、この【cafe music】の新しいメンバーをご紹介します。本日からメンバーになった、有坂沙友理さんです。」
その紹介に、沙友理は小さく礼をした。
店内に小さな拍手が響く。
それが収まった頃、佳祐は再び口を開いた。
「皆様は、彼女が持っている楽器を何と呼ぶかご存知ですか?」
「はーい、ヴァイオリンでーす!」
店長の問い掛けに、明るい声が溌剌と答える。
沙友理がそちらを見やると、答えたのは、カウンター席に座る、茶髪の青年だった。
いかにも今時の学生といった風貌の青年は、楽しそうにステージを見ている。
その彼に、佳祐は笑み向けた。
「そうです、ヴァイオリンです……と、言いたい所ですが、残念ながら違います。」
「え?」
青年はきょとんとしたように目を瞬く。
佳祐はの手が沙友理を、正確には沙友理の持つビオラを指した。
「こちらは、ヴィオラという楽器です。ヴィオラは、確かに見た目はヴァイオリンにそっくりですが、ヴァイオリンよりも一回りほど大きい弦楽器です。
音域もヴァイオリンより低く、より渋味のある音を奏でることができるもので、オーケストラでは伴奏を弾くことが多いですが、単体で聴くと中々に魅力的な音をしています。」
(店長……無駄にハードル上げないでよ。)
客を期待させるような言い方に、沙友理は内心呻く。
この店に来るということは、皆音楽を身近に感じているということだ。
これはがんばらなければまずい。
「ヴィオラ単体での演奏は、極めて珍しいものです。今回が、彼女のこの店での初舞台となります。どうぞ、お楽しみ下さい。」
そう締めくくり、佳祐はステージから離れる。
沙友理はヴィオラを肩に乗せ、顎ではさんで構えた。
客の注目が、沙友理に集まる。
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