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片道分の切符を買った。
シイタケ町が憎くて離れるわけじゃない。
シイタケ町には私にとっての思い出が多すぎる。
この錆び付いた町に私の思い出だけを残して去るつもりで、夜行列車に乗り込んだ。
片道切符の行き先は、身投げに適した断崖絶壁でもハネームーンで訪れる名所もない。
荒んだ町から淋しい町へ夜行列車の寝台に揺れながら明日の朝を待つ。
夜行列車はシイタケ駅からナメタケ駅まで各駅に止まり、終点のマツタケ駅まで鈍足で進む。
昔は駅の名前を飽きるほど暗記したが、仕事が忙しくなるに連れて鉄道の名前も忘却の彼方に飛んでしまった。
財布の中身は空だ。旅をいきなり決行したからだ。
資金も計画もないことに浮き足だっても仕方がない。
全てはシイタケ町に愛着を持つことができなくなったことが原因なのだから。
シイタケ町へは戻らない。秋の木枯らしが五月蝿い町だ。そのくせ不要な気持ちばかりが私を縛り付けていた。いい思い出と悪い思い出がせめぎあう。だから捨ててきた。
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