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ナメコ駅に夜行列車は止まる。五分の停車時間を挟み、出発する。
夜行列車プリマドンナは、私の国が誇る最前線の科学が作り出した移動機だ。
滑らかに夜を滑り、朝日と共に目的地を見る。その車両は人々を魅了する。従来ではたどり着かなかった未知を可能にした。
そうしてもうひとつ。
私の身体もまた従来の科学を越している。
サイボーグ。殺戮ばかりが仕事の人形。心すら消えたと声が反芻している。
脳があるのに心はない。それは物質だと言い切った飼い主の皮肉な笑みを殴って施設を飛び出した。
私がシイタケ町と向き合うことはない。
好きでサイボーグとやらになった覚えはない。ただ私の身体が破損して私の身体と引き換えに巨万の富を受け取った妻、子供。
話を聞いて絶望し、愛しい思い出を残して、見知らぬ土地を目指すことにした。
思い出があるのだからまだ人であると言い聞かせて、私は夜行列車を降りる。
視界に広がる淋しい田舎。透き通る朝日と吹く秋風。
終着駅が私に何をもたらすと言うのだろう。
終点のナメタケ駅。満席の夜行列車プリマドンナからぱらぱらと人だったものが降りてくる。誰も彼もが人ではない眼差しを町に向けて旅行鞄を引いて改札札口を目指して行った。
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