第1章

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暦の上ではもう秋なのに昼間の外気温は30度を超えて、残暑厳しい9月の午後のある日。 両手に食材をいっぱい詰めたスーパーの袋を提げて汗まみれの私を迎えたのは、寒いほど冷えた部屋のソファでだらしなく眠る男。 目深に被った帽子のツバが一瞬の苛立ちから視界を遮り、フローリングに散らかした雑誌や洋服を避けて歩く。 噴き出した汗が首筋から背中へと伝うのをそのままに、息を潜めてソファの横を通り越した時。 男は知らない女の名前を口にした。 ぱちん。 私の中の何かが途切れた音がした。 尽くしても尽くしても、全てを捧げても裏切られる。許しても許しても、同じことの繰り返し。 野菜ばかり入った白い薄いビニール袋は指の節に食い込んで、痛みに追い打ちをかける。 男と女は、どうしてこんなにキタナイノ? ズルズルと崩れた身体。 汗の染みた帽子を脱ぐと、髪の中からボダボタと汗の粒が零れた。 無神経な男のイビキとエアコンの動く音がする。
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