第1章

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空っぽの冷蔵庫の前には、袋に入ったままの食材たち。 長期出張から帰って来た男の為に、今日の夕飯は好物ばかりを並べるはずだった。 本当に出張だったの? 本当はどこで誰と一緒だったの? そんな問いさえ、馬鹿馬鹿しい。 着の身着のまま、自分名義の通知と貴重品だけを薄汚れたトートバッグに入れて。 目を覚ました男は私が居なくて心配するかしら?買い忘れでもしたかと腹を立ててるかしら? 静かにドアを閉めて、そこからは振り返ることもせず一心不乱に走り出した。 助けて… 助けて…!! 今見つかったら、また引き戻されてしまう。 色の褪せた、ツマラナイ世界から逃げだせるのはイマだけ。 キタナイ私を赦してくれる? 蔑まれてきた私を迎えてくれる? 深海から見上げる海面も、こんな風に光り輝いているのかしら?もしかしたら、僅かな希望は泡となって消えるかも知れない。 それでも、私の背中を押す秋の色をした風は心地よかった。
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