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「馬鹿な子ね…
こんなになるまで我慢して」
月の光に照らされて辿りついた豪華なマンション。もう一歩たりとも前に進む体力の残っていない薄汚い私を包んでくれたのは、懐かしい甘く柔らかい匂い。
「キッコ…」
やっとゴールについて、久しぶりに呼んだ名前に心が満たされていくようで心底安心する。
「通帳と貴重品は持ってきたのね?お利口さんよ」
キャラメルブラウンのウェーブかかったの髪も長い睫毛も、艶やかな唇も。ふくよかな胸も細く引き締まったウエストも。
「もう、心配いらない。
あなたのことは私が守るから」
ダメダメな私を包んでくれるキッコの胸の温かさに全てを委ねて瞼を閉じた。
3年前、キッコの忠告を無視してキッコの心配を振り切ってあの男の元へ走った。
あの男が与えてくれる喜びは私の中のオンナを目覚めさせ、キッコからの決別を決意させた。
今ならわかるのよ、キッコ…
アレは喜びでも何でも無かった。
まやかしだったって。
キッコから与えられるソレとは違う、一方通行な行為は私の知る悦びには足元にも及ばないんだもの。
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