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「私のマリア、おかえり」
ベッドで眠るマリアの額に唇を当てた。
あれから3年か…
一度は私から離れた可憐な花の妖精が、また戻ってきた。涙で濡れた頬をひと撫でして短く切り揃えた小さな爪を喰む。
「可哀想に…。やっぱり低俗で甲斐性のない男ね」
何も知らないマリアを言葉巧みにそそのかして。汚れのない純粋無垢なマリアをこんなにして。
私からマリアを奪った、容姿だけ整った中身のない男に呪いたいほどの怒りと憎しみが込み上げる。
あの男に劣るところなど一つたりとも無いのに。
男女の交わりを目にして、立ち尽くすしかない無力だったオンナの自分。マリアを守り切れなかったことを悔やんだあの日…
男に揺らされながら声をあげて、甘い香りをさせるマリアの背中と
マリアの肩越しに見た勝ち誇った男の顔。
土足で誰にも知られてはいけない、誰にも邪魔されたくなかった私たちの関係を…
あの男は土足で無神経にいとも簡単に砕いた。
「キッコ…」
微睡みの中で私の名前を呼ぶマリアの耳に頬を寄せた。
「もう少し眠ってもいいのよ?明日は一緒にサロンに行きましょ。ネイルもカットも、ボディも…もぅ、ダメダメよ」
自分を犠牲にして、あの男に尽くして愛を捧げて傷つき疲れたマリアを叱るつもりなんて毛頭ない。
伸ばした状態で手入れのされていない黒髪を撫でてマリアにゆっくりと言い聞かせばマリアは可愛く瞳を伏せてクスクスと笑う。
「綺麗になるかしら?」
「当たり前でしょ?だから、マリアは私の元に戻ってきたんでしょ?」
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