第1章 親指族

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「!!!」  目の前に現れた彼女の姿を見るとギンは急ブレーキで立ち止まった。 「あれ? サッちゃんにツキちゃん? ピザパーティでもするの?」 「あ、タッちゃん! 今タッちゃんも呼ぼうとしてたの」 彼女が部屋へと来るとフワァとお花の香りと共に彼女の髪が揺れた。微笑んだ彼女はサツ達に駆け寄った。 「………」  来た彼女をボーッと目で追うギンの姿を他所に、横で「代金っ!」と社員は訴えてるその言葉は、今の彼には当然聞こえてない。 「あ! 可愛い! このお人形何?」 栗色のショートボブの彼女は、ピザをムシャムシャと食べるメリサへと目線が過った。 「ん?」 彼女と目線が合うと、口回りをケチャップで汚してる彼女にとっては、お人形と間違えられるのは日常茶飯事な御様子らしい。 「タヤ、その人形動くぞ」 「え? 動くの? まぁ素敵!」 「いや、タッちゃん。素敵だけど……突っ込もうね」 彼女達は目の前にいるケチャ娘の存在が信じられなくてその様子を観察するように眺めていた。 「そんなに観られても困るんだが」 照れ臭そうにポリポリと頭をかくと、口をティッシュで拭いた。勿論彼女にとっては部屋に置いてあった普通のサイズのティッシュは大きい。 「そいつ……仕事の依頼人なんだ」  女子軍団の中に入りずらそうに発言しつつ立ち往生する少し哀れな男ギン。 「あら、ギンまだ居たの?」 「え……まぁな」 「……?」  チラッとメリサを見ると、自分のした事を暴露するんじゃないかと一人冷や汗を流していた。 「これじゃあ嫌われてしまう……」  そんな彼を他所に和やかに女子のお喋りは続いていた。 「貴方のお名前は?」 「メリサだ」 「私はタヤ。此方がツキちゃんとサッちゃん。宜しくね」  手を彼女の前に出すと、タヤの人差し指に小さな手を添えてお互い握手をした。 「あ、良かったらピザどう?」 「え? いいの?」 「私らも食べていいの?」 「どうぞピザ売るほどあるから」 「売るほどって……」 「御客さん。そろそろ御勘定を……」 ピザを勧められてタヤ達は美味しそうに頬張りながら彼の心とは露知れず女達はピザを平らげて行った。 「とんだ。赤字だぜ」 当然支払った後の財布の中身を見ながらずぅーんと落ち込んでいるギン。 「自業自得」  落ち込む様子のギンを冷めた眼で見るメリサだったが、今は彼に構ってる暇では無い様に、何かを警戒してるのかどうも落ち着きがなかった。
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