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お茶を出してくれた弟子に笑顔で応え、真っ赤になって下がるのを満足そうに見ていたら、隣のカンナが呆れた様に呟いた。
「何もそんなに愛想振り撒かなくても」
「あら、大事なことよ?ここはカンナの実家なんだもの。印象は良くしておいて損はないでしょう?」
「それはそうだけど…」
まだ少し納得がいかなくてもう少し小言を言おうとしたところで、縁側の方から声が掛かった。
「お待たせしました」
声の方に視点を転じると、屋敷の主・五月嵐蔵が次期宗家となる五月俊哉を伴って入室して来て、二人の前の席に腰を降ろした。
「失礼します」
嵐蔵に茶を用意して退室しようと俊哉が立ち上がろうとしたところを、嵐蔵が留めた。
「良い。お前もここに居ろ」
「ですが…」
「この機会にはっきりさせておいた方が良いこともあるからな」
俊哉が嵐蔵の少し後ろに控えるように座り直すと、カンナは姿勢を正して真っ直ぐに嵐蔵を見据えた。
こうしてキチンと対面するのはいつ以来だろう?
母が亡くなり、更に歌舞伎の稽古にのめり込む父に反発して、勘当同然で家を飛び出し、この前和解するまで家に近寄りもしなかった。
先日も話したのは障子越しで、顔を見たのは何年ぶりだろうか?
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