第1章

6/13
前へ
/19ページ
次へ
「ええ。良い嫁が来てくれて私も嬉しいわ」  エティアが冗談を言うと、しかめっ面だった嵐蔵の顔が少しほころび、俊哉は口元を袖で隠してクスクス笑っている。 「お前はまたそういう言い方して」 「あら、本当のことでしょう?」  カンナの小言もさらりと躱し、微笑むエティアに俊哉が口を挟んだ。 「カンナさんは確かに家事など得意でしょうけど、エティアさんにしか出来ないことあるじゃないですか」 「私にしか出来ないこと?」 「ええ。カンナさんがどんなに頑張っても子供は産めませんからね。そこはエティアさんにやって頂かないと」 「兄さん!」  何を気が早いことを!とカンナが言うもエティアは考え込んでいる。 「そうよね、そこは私が頑張るしかないわね」 「これはお孫さんの顔が見れるの、早そうですね」  俊哉の言葉に嵐蔵も満更でも無さそうな顔で頷いた。 「ところでカンナ、お前は五月の家に戻るつもりは無いのか?先の桜姫の舞台で、ご贔屓さんからはまた出ないのかと催促されているんだが」  嵐蔵の問いに、カンナはとうとう来たかと思っていた。  勘当と言い渡され、ずっと避けていた歌舞伎を頼まれて演じて、自分の中の歌舞伎への想いを再確認した。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加