第1章

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「…美弥にも報告するんだろう。後で案内させる」  嵐蔵に言われて、カンナは隣のエティアをチラッと見てから頷いた。  仏間の位置は把握していたが、家の主である父を差し置いて先に母に報告に行くのは何となく躊躇われたのだ。 「そういえば、何で再婚しなかったの?こういう言い方変だけど、話はあったでしょう?」  カンナの母の話になったので、エティアが嵐蔵に質問を投げ掛けた。  梨園のような特殊な世界では血の繋がりを重んじる。  五月のように梨園の中心となる家であれば、本来ならば跡取りであるカンナが家を継ぎ、更にまたその息子が…と続いていくのである。  そのカンナが居ながら、部屋弟子である俊哉が次期宗家となるのは異例のこと。  そして美弥は元々身体も弱く早くに亡くなり、またカンナも勘当の身となり家を出たとなれば、跡取りを求めるため周りの者が縁談を薦めてきたのは想像できた。 「今更、跡取りのために嫁を娶らなかっただけだ」 「先生、また誤解されてしまいますよ。美弥様のことを大切に想われていたから、再婚なさらなかったのに」 「兄さん、それ本当に?」  初めて聞く話に、カンナがすぐ反応した。
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