絞め殺しの木を刻む少女

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まるで絵でも描くみたいに、何度も手首に傷をつけていく。少女の口元は、何故か笑みを浮かべているようにも見える。 カッターナイフを机の上に置き、顔を上げた少女の瞳は机の上に飾られたイラストを捉えていた。 絞め殺しの木として知られる、イチジク属の植物を描いたイラストだ。絞め殺しの木は宿主である他の植物や岩に巻きつく事からその名がついている。 しかし、イラストには巻きつかれた何人もの生気を失った人間が、叫び声をあげたまま絶命しているのか、大きく口を開け苦悶の表情を浮かべていた。 少女は、再び手首に視線を戻す。 無数に切り刻まれた傷から滲み出し滴り落ちる血が、まるで手首に巻きついた絞め殺しの木のようにも見える。 血を拭うこともなく、机の上に放り出されたままの携帯電話を手に取った少女は、手慣れた動作でボイスメモの画面を開く。 ぐらりとよろけるように壁にぶつかった体は、ズズっと滑るように床へ崩れ落ちていった。 それでも少女は携帯電話を離そうとはせず、震える手で録音開始ボタンを押す。 携帯電話のマイクに向かい話し始めた、少女の血の気のない顔が、ぼんやりと画面の光によって照らされていた。
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