記憶の海に沈んでしまったそれを探す場所

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「でも名前が思い出せなくて……何だったかなあ」 彗太がうじうじと悩んでいるのに、紗名はのんきに店の名前を思い出そうとしているらしい。 「なんかトが付いてたと思ったんだけど。アトカフェ、イトカフェ、カトはないかな……ハト、ハトカフェだったかも」 「ハトカフェ? 変わった名前だね」 「場所は分かるの」 紗名はスマートフォンのマップを開き、彗太の前に差し出した。 どうやらビルの一階に店があるらしい。ビルの名前は載っているけれど、店の名前はマップ上では分からないようだ。 「中央通り沿いならそんなに遠くないね」 「雑誌のおしゃれなカフェ特集に載ってたお店なの。夕実ちゃんと見ていたんだけど、夕実ちゃんはこの電車使わないから、あんまり乗り気じゃなくて」 「ああ、吉村さんの家は逆方向だからね。いいよ、じゃあそこに行こう。場所を説明すれば、祐ちゃんも大体分かるだろうし」 駅から真っ直ぐ中央通りを歩いて行く。何度も来たことがある学生で賑わう街の景色を彗太は現実感なく眺めていた。 さっき見せて貰ったマップから大体の場所は分かるけれど、彗太にはそのハトカフェというカフェを見た記憶がない。新しく出来た店なんだろうか。
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