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記憶の海に沈んでしまったそれを探す場所
祐にクラウドを送り、スマートフォンを制服のポケットに仕舞う。紗名の方を見るとまだスカリムを見ていた。真剣な顔つきでせわしくページを移動しているところを見ると、何か調べものでもしているのかもしれない。
「祐ちゃんにクラウド送ったよ。返事が来るまで、どこかお店に入って待とうか。すぐ来るか分からないし」
「うん、そうだね。ねえ彗ちゃん、行きたいカフェがあるんだけど」
紗名は画面に注意していた目を彗太に向けると、いつも通り甘えるような声で言う。
何だ、紗名の調べていたのは、行きたいカフェだったのか―――――そんな紗名を見て安堵を覚えると同時に、彗太はこれが僕の日常なんだと自分に言い聞かせた。
あの画像の中の出来事は、遠い場所で起きていて(あるいは起きていないかもしれない)で、彗太にとってのリアルではない。救えない事を気に病む必要なんてないんだ。
そう思いながらも、紗名があんな目にあったらと考え、またあのおぞましい何かを思い出した彗太は頭からそれを追い出そうとぶるぶると振った。
そんな事あるわけない。あれは誰かのいたずらなんだ。
でももしあれが紗名で、彗太と同じように画像が送られてきた人が、まだ生きている可能性のある紗名を助けようとしなかったら、彗太はそれを見過ごした人に対して、激しい怒りを覚えるだろう。
彗太はそれを見過ごそうとしているのに―――――そんな自分の身勝手さにため息が出る。
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