第1章

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 杖が背中で揺れる事には慣れている。背中に杖の痕が付く位、修練の際肌身離さず走ってきたから、今までやってきた事が無駄じゃないって言えるだけの強さが今の僕には無くて、現実学園から出て、走る気力も無くなり、ぽつぽつと歩き出した。今まで何やってきたんだろうって、思いに苛まされている。言葉に出来る感情なんて本当は無くて、叫び声をあげたいのに、声すらあげる事も出来ない。叫びは言葉として認識できるものじゃない、感情の声すらあげれない。父さんと母さんは僕に失望するのではないだろうか? 悪い事ばかりが頭をよぎる。  どれくらい歩いただろうか? 考える事も出来なくなり、街中の喧騒を感じながら、これからどうしたら良いんだろうと考えていた。  「君、そこの君」  お爺さんの誰かを呼び止める声がするけれど、僕には何の関係も無い。  「ころこら、そこのモップ頭の顔が見えない君じゃ」  そう言われて、初めてお爺さんの声が僕を呼んでいるんだと気付いた。
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