第1章

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*はんぶんだけなら、ないしょは半分。 *あさって、村を抜けた宿場にオマエの探す者はいる。 *けれど残りの半分は。負ぶった分まで。ないしょ。 「おのれ!モノノケめ。どういう事なのか。 姿をみせやれ、今一度、成敗してくれる。」 *ないしょは半分教えた。後はオマエ斬り捨てた。 *ないしょは半分教えた。後はオマエ斬り捨てた。  ケーン、ケーン。  遠くに響く声が消えると、斬った赤石も消えていた。 侍は村の一軒に、宿を頼んで考えた。ないしょも何も、 約束の憶えは無いのだが、武士が狐狸妖怪ごときで、 下らぬ不安を、善良な村人に与える事はない。  翌日、民家を出る前に仇の旨を、聞いてもらって、 万が一の時はと、故郷への手紙を頼んで置いた。 主人に礼を述べたが、赤い童の話だけ、村を出るまで 黙っていた。  そのまま道を宿場町へ、昼頃までに着き次第、手頃な 宿を探すとも仇がいるとは思えず。次第に宿場は旅人で 自身も空き部屋を探したが、どこも早くに部屋が無く、 相部屋で願いますと、二階の間へ上がり挨拶をしかけて  約束どおりか。父の仇と百年目。仇も覚悟を決めては 表に出ろと声荒げ。逢魔時の宿場前、敵討ちに人の群れ。 居合いで先手と掛け声出したが、一瞬、仇との間抜けた。 小さな豆狸の影を見た。  一方、父親と同じ居合いで来ると読んでおり、必ず一の 太刀だけは何としても外させて、緩んで遅れた腰の根まで 横凪一刀両断を狙う仇は、上段片手に隠し砂を握っていた 零れ風のせいか、自分の前に赤い影が抜けた気が。  そのままずれた隙を埋め、袈裟掛け一撃、仇が地に伏す。  翌朝、役人に仇討ち免除、謄本を確認願い遺骸は無縁仏、 あの本国寺に弔われる事になった。縁のあるや無しや無常。  住職を訪ねると、本国寺は例の小さなお堂が別堂であり、 本堂は少し坂を下った離れた場所にある。大きくは無いが 古刹の空気に背筋が冷やりとした。  仇を討ち本懐を遂げた事には、住職は興味はない様子。 それは道理。殺生は殺生でしかない。故、今一つ訊ねみた、 あの赤い童の事を。ないしょは当たった。それは話さない。 ともかく、あれはこの村の童か。住職はご存知無いかと。 「小豆が好きな豆狸が、境内に住み着いてはおりましたが。 先日、坂の上にある紅葉の根元に、割れた石がありまして 赤く染まっていましたので、お堂の脇へ移してあります。」
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