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「紫月…。いつになるか解らないが…私はお前を此処から出したい」 今までの旦那様には…言われもしなかった言葉…。 「旦那様なら…わたくしは買われても構いません…」 「買うのではない。此処で限られた刻を過ごすのではなく…共に居たいのだ」 「旦那様…。旦那様は本当に変わってらっしゃいますね…」 優しいお言葉…。 そんな風に言われた事…無かった。 アタシは自然と微笑んでいた。 「私はお前の笑顔が見たいのだ…」 優しい優しい…旦那様。 そのお手も、眼差しも、お体も、お言葉も…。 全てがお優しい旦那様。 「旦那様…なんでしょう。わたくし、なんだか此処が暖かい…」 そっ…とアタシの胸に旦那様のお手を当てる。 「この暖かさ…なんでしょう…」 随分と長い事…忘れていた気がする。 何の…感情だったかしら…。 旦那様は緩やかにお笑いになって 「…もう少し、待っていてくれるか?」とお尋ねになった。 「旦那様なら…いつまでもお待ちしております…」 本当に、そう想えた…。 旦那様なら…。 此処での仕打ちも、耐えられる。そんな気がした…。
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