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それから…数ヶ月。 その間も、旦那様は毎晩いらしてくれた。 アタシの様な遊女を…愛してくださった。 「紫月…」 旦那様のお声で、アタシの名を呼んでくださるのが、嬉しくて堪らなかった。 愛しい…このお方が。 そんな想いが、溢れていた。 平和な夜が過ぎていた…。 外はもう…桜が咲いていた。 旦那様は襖を開け、桜を見ながらお酒を飲んでいらした。 アタシも、旦那様の隣に…そっと寄り添って、共に桜を見ていた。 然しある夜…旦那様が初めて、アタシの前で悔しさを露わにした。 「すまない…お前をいつまでも迎えに来られなくて…」 「よいのですよ。わたくしは、いつまででもお待ちしております…」 肩を落としている旦那様のお手をそっと握る。 「然し…。私は早く、お前を此処から出してやりたい…」 『わたくしも早く旦那様のお傍に居たい』 口に出しそうになったけれど、アタシは遊女…。 それだけは、お頼みできない…。 「紫月…。すまない…。すまない…」 旦那様はアタシに謝り続けた…。 なんと痛々しいお姿…。 アタシなぞの為に…こんなに…。 「旦那様…どうぞそんなに謝らないでくださいまし…」 「お前を早く…護ってやりたいのに…」 旦那様は拳を強く握られた。 アタシなぞの…遊女の為に…。 「早く…お前を傍に置きたいのに…」 こんな痛々しいお姿…。 アタシの抑えが…利かなくなった。
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