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出逢い
「旦那様、旦那様…今宵、アタシは如何?」
艶やかな着物に、艶やかな簪。
幾人もの女郎がいる中で、耳に入った琴の様な声。
唯通りすがる筈だった女郎宿の前、思わず立ち止まってしまった。
「旦那様、旦那様…」
顔は緩やかな笑みを浮かべ、手招いていた。
その女郎は一段と綺麗で…。
他の女達には無いような、『何か』があった。
私はつい、その女郎に招かれてしまった…。
「旦那様、こちらです」
軋む階段を上り、とある座敷へ招かれた。
その女は紫月と言った。「さぁ…」
紫月の酌で、酒が注がれる。
私が何でもない話をすると、紫月は顔を綻ばせながら聞いていた。
時に、鈴の音の様な笑い声をあげて…。
紫月との刻は瞬く間に過ぎ、気が付くと既に牛の刻。
「私も明日の職があるのでそろそろ…」
「あれ…。是非またいらしてくださいましね…」
紫月に見送られ、女郎宿を後にした。
「またいらしてくださいましね…」と言う紫月の声を背中に聞いて…。
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