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「なぁ、紫月…」 「はい、何でしょう?」杯をコトンと膳に置きながら。 「お前を、抱いていいか?」 「旦那様…」 少々驚いてしまった。 こんな事を聞かれたのは…初めてかもしれない。 他の旦那様は…何も聞かずに躰を求めてきたから…。 アタシは微笑んで答えた。 「旦那様、わたくしは遊女ですよ…」 「…………」 旦那様は少し考えている様だった。 そして間を置いてから、 「…そんな事を…簡単に言うな…」と、真面目なお目で見られた。 旦那様の言葉を、アタシは理解できなかった…。 然し「紫月…」とアタシの名を呼びながら…接吻してくださった。 遊女は己の躰を売るモノ…。 どの様な旦那様でも、お相手するのがアタシの役目…。 然し…この旦那様は…何処か違った。 今宵まで、何度いらしてくれたろう。 もぅ、数え切れないのに…今宵が初めての接吻。 唇が離れた時、思わず口を突いて出た。 「何故…今宵まで…?」 旦那様は緩やかにアタシの躰を包んでくれた。
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