第八章 決着

22/23
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/263ページ
アズナとリッチが観覧用モニターから姿を消した数秒後、再び姿を現したのはアズナだけであった。 現れたアズナの左手には白骨の欠片が握られていたが、やがて光の粒子となって消え去った。リッチは文字通り粉々になり帰界した。 「さて....さっさと終わらせるか」 未だ目を開けず座り続けるレイ。 その彼女の前にスキルによって一瞬で移動したアズナは、声を掛けることなく顔面に拳を振り下ろした。 「見事だ、アズナ」 パッと不自然に跳ね上がったレイの右手がアズナの拳を制す。 連戦での疲労があるとはいえ、レイがアズナに体術で勝ることはない。 「まさかリッチを倒されてしまうとはな」 「.....貴様」 淡々と賛辞を贈るレイだが、決してアズナの拳を掴む手を緩めることはない。 少なくともアズナが知るレイは、相手を近づかせるような戦い方はしない。圧倒的な魔力量と手数で相手を近づかせず、一歩も動かぬまま完封するのがレイのスタイルだ。 「万が一と想定したケースを君は当然のようにやってのける。 お陰で《夢粘土》の性能チェックができるのだから悪くはないがね。 《雷骨拳》」 「ガッ!!」 雷属性を纏ったレイの拳がアズナの腹部を打ち抜いた。 身体を駆け巡る電流と腹にめり込む拳の重さに、アズナは体勢を整えることもできずに地に投げ出された。 レイが召喚した最後の召喚獣(夢粘土)。 サキュバスやインキュバスといった夢魔と呼ばれる悪魔の成れの果て。朽ちた夢魔の意思集合体。 保有する能力は《夢粘土》のみが持つ固有能力、正夢。 召喚者に対象の視界を夢粘土を通じて共有させ、共有した時間に応じて能力を部分的にトレースする。召喚者が目を瞑ることで能力が発動され、目を開ける又は対象が意識を失うか死ぬことでトレースが完了する。 今回レイがトレースの対象にしたのはリッチ。 スキルを使用したアズナのスピードに対応するほどの身体能力と物理攻撃無効化と呪術。このすべてをトレースすることは叶わなかったが、身体能力の9割ほどはトレースが完了していた。 また、召喚と同時に鬼ヶ島に魔力還元術式を上書きし、鬼ヶ島に注ぎ込んだ魔力を少量ずつ取り戻すことで魔力の回復も行っていた。 これらがレイが備えた魔法の全て。 最後はあえてアズナの土俵に乗り込み、自らの手で2勝目をつかみ取る。 吹き飛ばしたアズナに追撃すべく、人生で最も速く駆けだした。
/263ページ

最初のコメントを投稿しよう!