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便座に座ってぼんやりと何にもないつるつるの壁を見つめていると、 賑やかな話し声と数人分の足音が近づいてくるのが分かった。 ドアが開いて更に鮮明になった声に続いて、 化粧ポーチを探る音が耳に入る。 わざわざ人が少ないフロアを選んだのになー このまま籠ってるのも会話を盗み聞きしてるみたいで気まずい、 仕方ない教室に戻るとしますか。 用を足したわけじゃないけれど、 体裁のために水洗のレバーへ伸ばした指先は、 次の瞬間、 冷たいその質感に触れることなく宙に留まった。 「あ、ねえねえ。4組の北川クン見たぁ?」 「見た見たー。痛々しいよねーアレ。 西園寺王子にやられたんでしょー?」
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